民営化で水道料金高騰は本当なのか?
水道の民営化の弊害として最も多く語られているのが、水道料金の高騰です。
ですが・・・過去のエントリーでも取り上げましたが、松山市の水道料金、気仙沼の水道料金はデマだったわけで・・・
ファクトチェック 水道法改正関連① 松山市水道料金のデマ
相変わらず根強い水道事業に対するデマ 宮城県が水道事業において官民連携のコンセッション方式を導入することが決まった影響か、ツイッターなどで水道民営化反対の声をちらほらと目にします。 でもこれ、あく ...
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ファクトチェック 水道法改正関連② 宮城県水道料金が民営化により早速値上げ?
宮崎県で早速水道料金が値上げ? 11月に宮崎県気仙沼市で水道料金が23%ほど値上げされたのですが、それを宮城県の水道事業改正の影響だとして 「民営化で早速水道料金が値上げ!」 というツイートが散 ...
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あと、浜松市も民営化で水道料金が値上がりしたという話もちらほら聞きますが、浜松市が水道料金を13%ほど引き上げたのは2017年のことで、浜松市がコンセッション方式を導入したのが2018年。
引き上げが先ですので、これを民営化(民間活用)のせいだとするのはかなり無理があるのではないでしょうか。
どこの自治体も水道需要が減る中、設備の老朽化対策もしなければならない状況に追い込まれており、水道料金の値上げは避けられない事態になっています。
その水道料金値上げをできるだけ抑えるための、広域水道事業のスケールメリット、民間の活力の利用、なわけでして。その事を理解してほしいなとは思います。
さて、ここからが本題なんですが、
水道料金高騰の有名な例として挙げられるのが、フランスのパリの例だと思います。
パリは1984年に民間2社(CEP社、EF-PE社)と契約、コンセッション方式を導入し、2001にドラノエ市長(社会党)が当選して、水道事業の見直しに着手。
で、2009年に市が合弁会社の株式を100%買い取って再公営化・・・というわけなんですが、この間に水道料金は2.7倍になったと言われています。
2.7倍とはかなりの値上げだと思うんですが、さてさて、本当のところはどうなんでしょうか? ちょっといろいろと資料を漁ってみました。
※パリ市は再公営化したとしていますが、民間の職員はそのまま継承しているんですよね。
パリ市の水道料金がコンセッション方式導入後2.7倍になったこと自体は事実
こちらの資料にありますが、
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000483319.pdf
パリ市がコンセッション方式を導入後、水道料金が約2.7倍に上昇したこと自体は本当のことです。
ですが、その期間中(1984~2008年)に
ポイント
- 用水供給価格が2.8倍に上昇していた
- 物価指数は1.7倍に上昇
- 水の需要は2割減少
と、なっていました。
さらに、一方で同じ期間に公営で運営されていた下水道料金は4.5倍に上がっているそうです。
水道料金が2.7倍という数字だけ見ると、確かに民間ダメじゃんってなるのも仕方がないのかもしれませんが、その周りの背景や状況を考慮すると、民間に原因があるとは言えないと思います。
現に公営の下水道料金はそれ以上に値上がりしているわけですし、周辺都市の水道料金と比べても、パリ市の水道料金が高いというわけでもありません。
こちらの資料を見ますと、
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000508885.pdf (海外の水道事業における民間活用の状況等について)
これは、フランス全体の水道料金の推移のグラフですが、
フランスの水道事業において、公営よりも民間活用の方が水道料金を抑えられていることが分かると思います。
イギリスにおいても同様です。
http://www.jwwa.or.jp/jigyou/kaigai_file/h26/h26_seminar_gbr_summary_01.pdf (平成 26 年度国際研修「イギリス水道事業研修」研修報告)
イギリスは1989年に水道事業を民営化。99年まで更新投資や環境対応をやり続け、2000年に料金改定を行いガクッと水道料金が安くなっています。
1989年→2011年の間に消費者物価指数は79%上昇していますが、水道料金は43%の上昇に留まっています。
これって、民営化の失敗なんでしょうか? 料金安くなってますけど?
じゃあなんでパリ市は水道事業を再公営化したんだ?
こうなるとパリ市は特に問題はないのに何で水道事業を再公営化したんだ? という疑問が湧くと思います。
料金も周辺都市に比べて同じか、安いくらいですし・・・。一体何があったんでしょうか?
以下にパリ市の再公営化についてまとめられた資料があるのですが・・・
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000150940.pdf (フランス・英国の水道分野における官民連携制度と事例の最新動向について)
政治的な理由という評価が結構あるんですよね。
日本でも見かけることがありますよね、特にその政策に意義があるようには見えないんだけど、その首長の強い政治的理念によって政策が決定するという話・・・
フランスでも民間はダメだという政治的な主張を持っている方はいらっしゃると思いますので、そういった方々から支持を得た市長が再公営化に舵を切るという事は十分に考えられます。
民主主義ですからね。ドラノエ市長は社会主義よりのポジションらしいですし。
一応、料金決定プロセスが不透明だった、とかそれらしい理由も聞くのですが、それならばそのプロセスが明確になるようにすればよいだけなので、わざわざ再公営化する理由としては弱いかなと。
再公営化後の料金値下げも少額ですし、再公営化を正当化するための取ってつけたようなパフォーマンス・・・の様にも見えなくもない。
まあ、この辺は憶測の部分が大きいため、何とも言えませんが、資料、データを見る限りはパリ市での民間活用について、大きな失敗というものは見られないように思います。
細かな問題点は修正していけば良いだけですね。
まとめ
- 水道料金高騰の話はデマばかり(松山市、気仙沼市、浜松市)
- パリの水道料金2.7倍は本当だが、状況的に公営でも同じ結果になっていた公算が高い
- 統計的にフランスの水道事業は公営より民間活用の方が水道料金を安く抑えられている
- イギリスも民営化以降、水道料金上昇 < 物価上昇になっている
- パリの再公営化は政治的な目的で行われた?