だから、TPPと内容同じなのに・・・
日本時間の26日、日米貿易協定の合意が確認され、両首脳が共同声明に署名しました。
で、まあ・・・。案の定というか、やっぱりというか、その内容の一端だけを取り出して、噴き上がっている人たちが何人もいました・・・
アメリカ産牛肉の関税38.5%→9% 同豚肉の関税1キロ当たり最大482円→50円 一方、日本から輸出される自動車と関連部品の関税は継続協議。追加関税や数量規制の火種も 「両国にとってウィンウィン」どころか「米国に対する一方的屈従」ではないか!https://t.co/yBJ6sEmvKt
— 山下芳生 (@jcpyamashita) September 25, 2019
というか、これTPPの時にも話題に上がっていた内容とほぼ同じなんですけど、安倍がアメリカに譲歩したと大騒ぎ・・・
この人たちは過去に全く学ばないのでしょうか。
上記の山下氏は豚肉と牛肉の関税をやり玉に上げていますが、これらははっきり言って問題ありません。
全く譲歩したとは言えません。
というか、TPPの時にとっくに論破されちゃっている内容です。
日本の豚肉関税制度は抜け穴だらけ
まず豚肉関税についてですが、
関税が1キロ当たり最大482円→50円になった
と聞くと、ものすごく引き下げられたような感じがしますが、実はそうでもないんです。
詳しく説明すると・・・
輸入豚肉にかかる関税は「差額関税制度」というものが採用されています。
この「差額関税制度」とは、基準価格547円/㎏以下の輸入豚肉に対して、その差額分を関税として徴収、基準価格以上の豚肉については4.3%の関税がかかる仕組みです。
例えば、輸入豚肉の価格が200円/kgだった場合、基準価格である547円の差分347円が関税として上乗せされます。
つまり、日本の畜産農家を脅かす「安い輸入豚肉」程高い関税がかかることになりますので、日本の畜産業の保護になる・・・というのがこの制度の目的であるわけなんですけど・・・
それがこの「差額関税制度」、全くといっていいほど機能していません。
まあ、冷静に日本に豚肉を輸入する業者になってみて考えてください。
普通、安い豚肉を輸入すればするほど差額の関税をかけられてしまうわけなのですから、わざわざ安い部位の豚肉を輸入しようとはしないはずです。
差額関税の分だけ損してしまいます。
ですから、豚肉の輸入業者は、安い部位の豚肉に、ヒレなどの高い部位の豚肉を混ぜ、キロ当たりの単価を高くして輸入します。
これはコンビネーション輸入と呼ばれるものです。これがもう当たり前のように横行しているのが日本の現実なのです。
ちなみにですが、2013年の豚肉輸入総額は3897億円。
そして、豚肉関税税収の総額はだいたい180億円・・・ということはつまり
180億/3897億=0.0461・・・
豚肉の関税税収は豚肉輸入総額の4.6%程度ということになります。
この金額は基準価格(547円/kg)以上の豚肉にかけられる4.3%の関税率とほとんど変わりません。
このことからも上で説明した、高い部位と安い部位を混ぜ混ぜし、キロあたりの単価を引き上げて輸入しする、コンビネーション輸入が常態化していることは明らなのではないでしょうか。
というわけなので、「差額関税制度」ははっきり言ってザル。
日本の畜産農家を守っているとは言えません。
豚肉の差額関税制度は廃止したほうがいい
この豚肉の差額関税制度ですが、、このTPPを期に廃止してしまった方がいいと思います。
というのも、以下のように「差額関税制度」を悪用して、脱税しているような業者もあるわけでして。
豚肉輸入価格水増しで61億円脱税の疑い 4人を逮捕、東京地検特捜部
https://www.sankei.com/affairs/news/160525/afr1605250026-n1.html
『 豚肉の輸入価格を水増しして申告し、関税計約61億5300万円を脱税したとして、東京地検特捜部は25日、関税法違反容疑で、食肉輸入販売会社「ナンソー」(千葉県柏市)など4社の実質的経営者、田辺正明容疑者(69)=千葉県我孫子市=ら4人を逮捕した。(後略)』2016.5.25 産経新聞ニュース
高い輸入額を申告すれば関税を安く抑えられるのですから、虚偽の輸入価格を申告して関税を免れようとする業者も少なくないのです。
今回TPPでこの制度も見直しされる事になると思うのですが、これは国民にとってもいいことです。脱税や制度の不備で不利益を被るのは国民、消費者ですから。
こんな抜け穴だらけの関税なんか、なくしてしまった方が消費者のためになります。
日本の牛肉の輸出量はこの6年で4倍増
下記のニュースを見ていただきたいのですが
牛肉輸出、最高を更新 18年度28%増 冷蔵は台湾トップ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45077230R20C19A5QM8000/
『牛肉の輸出が増えている。農畜産業振興機構(東京・港)によると、2018年度の冷蔵・冷凍を合わせた牛肉輸出量は過去最高の3799トン。海外での和牛人気がけん引、前年に比べ28%増となり、6年連続で過去最高を更新した。輸送時の鮮度管理が難しく冷凍ものより価格が高い冷蔵牛肉では17年に輸出を再開した台湾が香港を抜き、初めてトップとなった。(後略)』2019/5/21 18:30 日経新聞
2013年には1000トンに満たなかった牛肉の輸出量が、2018年には4000トンに迫る勢いで伸びています。
実に6年ほどで4倍に。
円安と和牛ブームに乗ったおかげかと思いますが、ものすごい勢いですよね。
ところが、今回の(TPPの時もだけど)日米貿易協定では、日本側の牛肉関税が38.5%から9%に引き下げられる事しか話題に上がっていません。
逆にアメリカ側の牛肉関税はどうなっているのか? 気になりませんか?
気になりますよね。
ここに農水省の資料があります。
http://www.maff.go.jp/j/press/kokusai/kokusei/attach/pdf/190926-1.pdf
これによると
現行200トンまで無関税、200トン以上に26.4%の関税がかかっているのですが、それが65,005トンの複数国枠を確保となっています。
つまり、事実上の関税撤廃ですね。
ちなみに現行の200トン枠は既に超えてしまっているようです。
したがって、日米貿易協定が施行されれば、さらに和牛の輸出が増えることは間違いないですね。
これは日本が一気に攻勢に出るチャンスじゃないでしょうか!
牛肉関税9%は16年後です
それでも、
いくらアメリカの牛肉関税が撤廃されたとしても日本側の関税が9%に一気に引き下げられたのでは元も子もない。
日本の畜産、和牛は終わりだ。
なんて声があるかもしれません。
ですが、今回(というかTPPと同じなんですが)の協定で決まった日本側の牛肉関税を9%に引き下げる措置ですが、実施されるのは実に16年後の話です。
16年かけて、少しずつ段階的に関税率を引き下げていきます。しかもセーフガード付き。
ま、発行時にガツンと10%程下がるといえば下がるのですが、いざという時のセーフガードはありますし、アメリカの実質関税撤廃と比較すると「ゆるい」と言えるでしょう。
Win-Win発言
安倍首相のWin-Win発言がなにやら物議を醸しているみたいですが、
そもそもなんですが、和牛を食べている比較的裕福な層が、牛肉関税が引き下げられて、安いアメリカ牛肉が入ってきたからといって、アメリカ牛肉に飛びつくでしょうか?
また、普段和牛を食べていない庶民にとっては、関税が低くなろうが和牛は高嶺の花であることには変わりはありません。
むしろ、今回のTPP、日米貿易協定により、
和牛の輸出拡大 → 和牛の生産量、品質が改善 → 富裕層がより美味しく和牛を食べられるようになる また、海外に和牛が普及する
牛肉関税引き下げで安い輸入牛肉が入ってくる → 庶民も手軽に牛肉が食べられるようになる
要は、和牛と輸入牛肉は棲み分けがされていますので、競合しません。
関税の引き下げは日本と海外諸国の需要と供給を拡大し、消費者にとって、生産者にとってもプラスにしか影響しないと言うことです。
これぞ交易の効果!
Win-Winという発言に間違いはないと思うんだけどなぁ。
まとめ
ちょっと長くなってしまったのでまとめます。
- 豚肉の差額関税制度は元々機能していない。
- 豚肉の関税引き下げの影響はない。
- アメリカの牛肉関税は実質撤廃。日本は輸出攻勢に出れる。
- 日本の牛肉輸出量は6年間で4倍に増えている。
- 日本の牛肉関税の引き下げは16年かけて実施する。(セーフガードあり)