規制緩和 農政

自家採種が禁止されて家庭菜園もできなくなるって言ってる奴、ちゃんと法律の中身読んでいるのかな?

なんか妙にツイッターで「自家採種」という言葉が目につくので、なんでかな~と思っていたら、こういう事ですか・・・

昨年種子法が廃止されたのと同時に、種苗法の改正が進められているのですが、この法改正について山田正彦氏がFacebookで以下のようなコメントをしていました。(だいぶ前ですけど)
 
これが発端かなと思います。
農家が自家採種できなくなる~だそうです。

日本では野菜の種子等が自家採種できなくなることになりそうですお願いです。大変なことになりそうなので、是非シェア拡散して頂けませんか。種子法が廃止されても、種苗法があるから大丈夫だと政府は説明しましたが、その種苗法21条で知らない間に...

山田 正彦さんの投稿 2018年4月24日火曜日

 
しかしながら、
 
私もこの法改正の内容を見たのですが、何が問題なのかさっぱり分かりませんでした。
 
改正内容の概要はこちら
 

中国や韓国に種苗を盗まれちゃってもいいの?

ちょっと前の話になりますが、平昌オリンピックのカーリング女子日本代表チームが、韓国のイチゴを食べていて、そのイチゴが日本から不当に盗まれて品種登録されていた事が判明。
 
これ大きな話題になりましたよね。
 
この法改正はそれを受けての事・・・ではないですけど(以前から問題になっていたので)、種苗法の罰則を強化し、権利侵害が発生した場合の訴訟や救済を円滑化するための措置が検討されたというだけのことです。
 
当然の対応だと思います。むしろ遅いよと言いたいです。
 
日本から盗まれている種苗の権利はイチゴだけではなくて、中国にイグサ、菊、カーネーションなんかがありますし。盗まれっぱなしじゃダメでしょう。
 
こういった権利の侵害を野放しにしていては、日本で農家や企業が、新たに優れた品種を作ろうとするインセンティブが働かなくなってしまいます
 
特許法と同じです。せっかく長い研究開発期間を経て完成した発明を他の者に掻っ攫われて、勝手に販売されたらたまったものではありません。
 
日本の農業の発展のためにも、権利はきっちりと守らなければなりません。
 

罰則は権利登録された種苗のみ。家庭菜園は問題ない

また、山田氏は「農家が古来、代を繋いで必死に守ってきた種子を少し残しての翌年作付けする権利まで奪われる」と言ってますが、種苗法に登録がない、権利化されていない種苗は今後も自由に自家採種しても問題はありません。

詳しくはこちらの農水省のパンフレットをどうぞ

まとめるとこんな感じ

ポイント

  • 品種登録されていないものは対象外(在来種など)
  • 登録期間の切れた品種は対象外
  • 品種登録されていないものは対象外
  • 育成、品種改良目的の採種は対象外
  • 家庭菜園、趣味の利用は対象外

これらは別に誰の権利も侵害していませんから罰則はないのは当然です。
種苗法の目的は、育成権、種苗の権利を守ることですからね。
 
種苗の権利期間って短いですし、罰則の対象となる種苗はごくわずかなんじゃないでしょうか。
 
そもそも、自家採種自体が既に時代遅れで、非常に効率が悪いシロモノになっています。
自家採種のデメリットの最たるものは、代を重ねるごとに品質が安定しなくなり、味や収量も劣化することかなと思います。
 
優れた特性を持ったタネを選んで採取すればいいんでしょうけど、個人の農家がそれできるとは思えません。
 
それにタネを取るための畑が長期間専有されてしまうので、生産効率が悪くなってしまいますし、タネを取るのだって手間とコストがかかります。(保管と品質の管理とかも)
 
それだったら、隔離された専用の圃場で安定的に生産されたタネを種苗業者から買った方が遥かに効率的です。
 
餅は餅屋、種は種屋ですね。
 

そもそも自家採種している農家は少数

それに、最も自家採種の割合が多いであろう稲作農家でさえ、自家採種の割合は全体の12%でしかありません。
 
ほとんどのコメ農家が、毎年苗を買っています。
 
米麦の種子更新率(全国米麦改良協会)
 
種子更新・・・種子を新たに購入すること
 
野菜に至っては自家採種している農家の割合は更に下がると思います。
F1品種の方が多収で、品質が安定していますからね。
 
 
農協や行政も、銘柄のブランドの価値が下がるので、自家採種はなるべくやめて、毎年種子更新するように推奨しているくらいですし。
 
「種子更新率 JA」などで検索するとガンガンでてきますよ。
 
今回はそれを法として明文化しただけに過ぎないんですが、それを曲解して企業利益のために自家採種の権利が奪われるとか・・・針小棒大にも程があると思います。
 

「知見を民間に渡す」に過剰反応しすぎ

あと、定番のモンサントについて。
ツイッター等で種苗法は海外企業に権利のお墨付きを与えるだけだと吹聴している輩がいます。

要は

種子法廃止 → コメの知見を民間企業に渡す → それを民間企業が種苗法で権利化 

と、言いたいのだと思いますが、

前述したとおり、種苗の権利は特許法と同じです。
権利として認められるには、既存の品種にはない特徴、新規性を持っていることが必要で、ただ単に既存の種苗を単純に掛け合わせたものは権利として認められません。

別に組み合わせてもいいんですけど、その組み合わせたことによって新たなメリット、先進性が認められなくては権利化できません。

実際モンサントは「とねのめぐみ」を開発して品種登録していますが、これは「こしひかり」と「どんとこい」をかけ合わせたものなんですよね。

「こしひかり」の旨味と「どんとこい」の多収性、これらを組み合わせた、これまで存在していなかった優れた品種を開発できたから種苗登録して権利化できたわけなんです。

組み合わせたけど、今現在存在している品種と変わらなかったら登録できません。(登録申請にもコストがかかる)

そもそもなんですけど

「とねのめぐみ」は2002年に開発(1997年から開発着手)されたものなので、種子法があろうがなかろうが、農業競争力強化支援法で「知見を民間に渡す」と明文化されていようがされてなかろうが、関係ないんですよね。

だって、種子法があった20年前から民間企業は普通に行政が開発していたコメの知見を利用して、種子開発をしていたのですから。

で、知見を利用する・・・これをズルいと思いますか?

まあ、行政が積み重ねてきた知見をタダで民間が利用するのはズルいと考えているから、批判の声が上がっているのだと思うのですが、良く考えてみてください。

人類はこれまで他者、過去の技術者が開発してきた知見、発明をベースにしてより良いものを開発して、科学技術を発展させてきました。

他者の作った知見、権利をそのまま流用して商売するのは権利の侵害になりますが、その知見を元にまだ我々が見たことのない新しいモノを生み出すのは権利の侵害にはなりません

むしろそれこそが発明であり、人間の叡智の結集です。世の中にとって望ましい事です。
そうやって我々人間は科学技術を進歩させて、生活を豊かにしてきました。

したがって、行政の知見を一切民間に渡さない。これでは単なる利権です。
しかも我々の収めた税金でできた知見を行政やごく一部の者が独占するのは悪質極まりないと思います。

そんなに民間に種子のシェアを奪われるのが嫌なのであれば、行政はきちんと市場のニーズを捉えて、民間企業よりも優れた種子を開発すればいいだけの話なんですよ。

別にタネの供給が行政だろうが、タキイやサカタのタネだろうが、モンサントだろうが平等な開発競争の中で優れた種子が開発されて、普及していく事は我々国民にとって大きなベネフィットとなります。

モンサントは日本市場に興味はない

世界の種子市場は440億ドルと言われていますが、日本の市場は14億ドルに過ぎないんですよね。
 
日本は耕地面積が少ないので当然といえば当然だと思うんですが、こんな市場をモンサントなどの多国籍企業が狙っているとか本気で思っているんでしょうか。
 
日本の政治家や官僚にロビー活動かけて、しかも競合であるサカイやサカタのタネなどがひしめく小さな日本市場を狙うなんて・・・投資効率悪すぎですよね~。
 
人口が増加している中国、インドや東南アジア諸国の種子市場の方が遥かに巨大なので、普通ならそちらを狙うでしょう。
 
競合もそんなに居ないし、法律もそれほど整備されておりませんので。
わざわざ日本市場というレッドオーシャンに飛び込む必要はございません。

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